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「BLUE INNOVATIONチェコ伝統の藍染めの今」展によせて


2018年9月21日より開催の「BLUE INNOVATION」展のオープニングパーティで、お話させていただきました。その内容を以下にお伝えします。

このたびは、このような場所でお話させていただく機会をいただき、ありがとうございます。

私がどのようにチェコの藍染めと出会ったのか個人的な話で恐縮ですが、そこから少し話をはじめたいと思います。

私は1997年から4年間、チェコ・プラハで暮らしました。その滞在時に、偶然、藍染めの反物を近所の仕立屋さんのウィンドウで見かけたのが、私とチェコの藍染めとの出会いです。そのときはじめてチェコにも藍染めがあるということを知って、その中にどこか少しアジアに通じるものを感じてとても懐かしく思ったことをよく覚えています。

そのあと、帰国してから藍染めについて調べてみると、チェコで操業しているのは現在2つの工房のみであるということがわかりました。私がプラハに住んでいた当時は、体制が変わった1889年から10年足らずで、物価も上がっていました。そんな中で、藍染めという手間のかかる工芸品が生き残るのは大変なことだと考えました。幸い私はチェコよりも人口の多い日本に住んでいるので、日本の人に藍染めを紹介することで、藍染め工房の存続に何かしら貢献できるかもしれないと思ったのが、ヴィオルカを設立した一番の理由です。最近では、工房の方たちと協力して、1960年代から数多くつくられていたパターンの復刻にも取り組んでいて、日本の人にもっとチェコの藍染めの魅力を知ってもらえるよう活動を続けています。

ヴィオルカの活動を始めてから、日本の方たちと藍染めについて話していると、藍染めって日本のものかと思っていましたという、藍染めを日本独自のものととらえている人がとても多いことに気づきました。

かつて江戸時代には、日本にも身分制度があって、幕府が、庶民が着るものの色を藍、茶、鼠という風に制限していたことがありました。なかでも藍染めは、技法に工夫が重ねられて大きく発展しました。これにはたとえば、かすり、絞り染め、型染め、といったものが含まれますけれども、色が制限されたことで、かえって染色技法が発展し、青の色の美しさが極限まで引き出されたと言えるでしょう。

今でも藍染めの浴衣や着物、風呂敷やのれんといったものは、生活の中で見られるものなので、こうしたことから日本の人は藍染めを自分たちの国独自のものととらえるのではないかと思いますし、藍染めをとても身近に感じ、藍染めの魅力を理解する人も多いと感じます。

こうして藍染めに親しんでいる日本の人にも、チェコの藍染めはとても魅力的に映っているようです。チェコの藍染めは、技法的には、型染めと言われ、まず版木で布地に防染剤を置いてから、藍の染料槽に布を浸すと、防染した部分の地の色が残り、模様が染め抜かれるというものです。

防染に使われるのは、日本の防染糊と同じ役割をするパップと言われるペーストですが、チェコではカオリンという磁器の材料になる粘土が使われ、粘土を使うことで白地は白い絵具で塗りつぶしたような純白になり、そこに濃い藍色に組み合わせることでくっきりと強いコントラストが生まれます。型染めの一番の魅力は、にじみのない、青と白の対比にありますが、チェコのではその技法が極められ、ほぼ300年間変わらずに現在に伝えられています。

チェコの藍染めは民族衣装に取り入れられているので、チェコの方は、日本の着物と同じく藍染めを伝統的なものととらえていると思いますし、また、パターンに限って言えばチェコでは共産主義時代の1960年代以降にたくさんの新しいパターンが生み出されました。伝統的な文様に加えて、ヨーロッパの同時代の流行も取り入れられたものなので、そういう伝統一辺倒だけではないものがあるということもおもしろいです。

最後になりますが、今回の展覧会について感じたことをお話したいと思います。

19世紀末に、合成染料が広まったことで、日本でもチェコでも藍染めはいっきにすたれてゆきました。チェコでは、共産主義時代の間、藍染めの制作も盛んでしたが、その活動も1995年に終わり、現在は、藍染めの工房も含めて、伝統を継承するための、藍染めの新しい姿が模索されている状況だと思います。

このような状況で、展覧会キュレーターであるクロウスコヴァーさんは、クリエイターによる新しい藍染めの姿を提案しています。そしてこの提案は、様々な技法やアイディアにより、藍染めに新しい価値をもたせ、藍染めの伝統を受け継いでゆきたいという意志に裏打ちされていると思います。それが、今回の展覧会のタイトルであるブルー・イノベーションにとてもよくあらわされているのではないでしょうか。

同時に、伝統を残すためには、たくさんの人に藍染めを使ってもらうことも必要です。たくさんの人に今回の作品を、自分の暮らしに取り入れることを想像しながら見ていただきたいと思います。そこから作る人と使う人の対話が生まれ、さらには藍染めの伝統が未来に引き継がれてゆくことを心から願っています。

ご清聴ありがとうございました。

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