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ミュシャの最高傑作《スラヴ叙事詩》 ついに来日!(その3)

こんにちは、チェコの伝統藍染めヴィオルカです。

いよいよアルフォンス・ミュシャによる《スラヴ叙事詩》連作20点の公開が来週に迫りました。作品完成から今まで、全20点がチェコ国外に揃って貸し出しされるのは、初めてという、貴重な機会です。

前回は、「チェコ帰国後に《スラヴ叙事詩》が再公開される場所は、まだ決まっていません」と書きましたが、現地では新しい展示施設の検討が続けられており、将来施設が出来上がれば、再び《スラヴ叙事詩》全点が、チェコ国外に出ることは難しくなるでしょう。そう考えると、今回日本で全点が展示されるのは、とても不思議な時のめぐりあわせにも思えませんか?

またこうした大きな展覧会が開催できるのは、日本とチェコの両国の関係が良好だからです。第二次世界大戦後、日本とチェコスロヴァキアの国交が回復したのは、1957年2月13日のことでした。今年はその60周年にあたります。そしてこういった大きな展覧会プロジェクトを行うことができるのは、世の中が平和である証です。現在でも、戦争に巻き込まれ、また迫害を受け苦しんでいる人はたくさんいます。そのような人たちを忘れることなく、平和に感謝したいです。

さて、《スラヴ叙事詩》を描いたアルフォンス・ミュシャとはどんな人だったのでしょうか?パリで活躍したミュシャは知られていても、彼のモラヴィアでの幼少期や若き日の苦労を知っている人は少ないかもしれません。

ミュシャは、1860年、モラヴィアのイヴァンチツェで生まれました。ミュシャの芸術家としての素地は母のアマーリエ譲りかもしれません。ウィーンの上流家庭で家庭教師をしていたアマーリエは、芸術への関心も深く、物腰の軟らかい女性でした。それに反して、ミュシャの父オンドジェイは、武骨な男やもめで、この夫婦の間に初めて生まれた子どもがアルフォンスでした。そのあともこの夫婦の間には、ふたりの娘が生まれています。ミュシャは、独立した後も、早世した父の連れ子を訪ね、そして妹ふたりとは生涯にわたって頻繁に手紙を送り合い、お互いを訪ね合ったといいます。こうした関係からは、思いやり深いミュシャの人物像がうかんできます。

画家になるというミュシャの希望は順調には進みませんでした。1879年には、プラハのアカデミーに入学を申し込むものの、アカデミーの教授からは、申し出を断られてしまいます。失意のままウィーンの舞台装置の会社で働き始めても、1881年にはリング劇場が火災にあい、最大の顧客を失った会社からは、解雇されてしまいます。その後に、クーエン=ベラシ伯爵と出会い、認められたミュシャは、伯爵の居城の壁画描きにいそしみつつ、ミュンヘン、そしてパリに学びますが、突然伯爵からの援助が途絶え、勉学は二の次の、挿絵描きの仕事で糊口をしのぐ、パリでの生活がはじまります。

シャルル・セニョボス著 『ドイツ史の諸場面とエピソード』プラハ大学を創立するカレル4世(1896年)

Alfonse Mucha: Historische Szene; Aquarellfarben und Gouache auf Papier, 49,5 x 36 cm dorotheum.com commons.wikimedia.

ミュシャは、猛烈に働きます。当時のグラフィックの仕事は賃金が低く、働かなければならなかった事情があったこともありますが、なんといってもミュシャの勤勉で我慢強い気質がそうさせたのです。のちに息子のイジー・ミュシャが、評伝にミュシャの言葉をこんな風に書いています。

「(父は、)若いころから才能よりも仕事を信じ、もし芸術家が何かを成し遂げたいと思ったら、1日14時間から16時間は仕事をしなければいけないと強く言っていた。… 私の一番大切な友人と支援者は、時間だった。いつか、父はこう語ったことがある。時間こそ、仕事をするうえで、私がもっとも必要とするものだった。つまらない遊びで私の友人を殺してしまうなど、どうして考えられよう?」(Jiří Mucha: Alfons Mucha, Mladá fronta, Praha 1982)

こうした仕事に対する姿勢が一夜にしてミュシャを売れっ子にしたサラ・ベルナールのポスターの大当たりを、そして生涯の大作、《スラヴ叙事詩》を生むことになったと言えるでしょう。

Alfonse Mucha

Gismonda 1894 Poster for Victorien Sardou's Gismonda starring Sarah Bernhardt at the Théâtre de la Renaissance in Paris. ARC Lithography 216 x 74,2 cm Grendelkhan 2010 commons.wikimedia

今日は、このへんで。続きをお楽しみに。

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