絵本 『藍染めのアポレンカ』(求龍堂)原作者 ロマナ・コシュトコヴァーさん コメント
出版に際し、ヴィオルカ主宰の小川よりロマナさんにいくつか質問をお送りしました。回答コメントをお届けします。
1. この本を作ろうと思ったきっかけ、イラストレーターとの出会いについて教えてください。
まず私自身について申し上げると、テキスタイルやイラストレーションとはいつも近しい関係にありました。絵本を集めたり買ったりすることも続けています。現在、私は美術館でおもにイラストレーションの展覧会の企画をしています。そうした展覧会の企画を準備するなかで、私はイラストレーターのヴェロニカ・ヴルコヴァーと出会いました。2018年、彼女の作品である絵本『幼子(おさなご)キリストの衣』の挿絵の展覧会を準備することになったのです。ヴェロニカは藍染めに関する本を書くという私のアイデアにとても協力的でした。次第に私たちは友人となり、今では本当の姉妹のようになりました。
本の構想が生まれ、博物館での調査がはじまりました。挿絵の制作には1年近くの時間がかかりました。イラストレーターのヴェロニカは、水彩で、絵本の1ページ1ページごとに物語の細部を描いていきました。そして、その細部をコンピュータで組み合わせ、それぞれのページの構図を作り上げてゆくのです。この手法は非常に長く時間のかかる、根気のいる作業です。出来上がった絵本のページからは、そうした時間のかった、手から生まれる仕事が見て取れるでしょう。そのきめ細やかさ、丁寧さ、そして豊かさを感じていただけるでしょう。水彩画は詩的な繊細さを作品に添えています。藍染め工房の部分など、男性的な要素は、ヤン・シュラーメクによるコンピュータイラストレーションによって表現されています。
©︎Veronika Vlková, Jan Šrámek, courtesy of Kyuryudo
2. ヒロインにアポレンカという名前を選んだ理由と経緯を教えてください。
最初から、私は物語の主人公をおじいさんと少女と決めていました。おじいさんと、おじいさんから技を受け継ぐ少女という風に。私はまた、自身の子供時代にも思いを馳せました。私が5歳になるまで、両親と私は祖父母と曾祖父母と一緒に住んでいました。曾祖母のアポレナは飾り模様を描く名手でした。この想い出を私はこの本に加えたいと思ったのです。
聖母マリアの礼拝堂に飾り模様を描いているおばあさんの挿絵は、私の曾祖母アポレナ、そしてこの絵本のヒロインの名前、アポレンカにちなんでいるものです。この礼拝堂と花の装飾は、私たちが住んでいた村に実際にあった礼拝堂をもとにしています。
アポレナという名前には、「光の少女」という美しく力強いイメージがあります。なにか超越的なもの、私たちの心にずっと残るような、そんな感じを持つ名前です。
曾祖母のアポレナは、取るに足らないような、ありきたりのものを美しいものに変える術を知っていました。普段使っているものに飾り模様を描いたり、食器やガラスに絵を描いたり、村の友人たちの家にも飾り模様を描いていたものです。それはとても美しく、また、村の日常ではありふれたことだったのです。
©︎Veronika Vlková, Jan Šrámek, courtesy of Kyuryudo
3. チェコではこの本はどう受け止められましたか?
この本はとても好意的に受け止められていると感じています。この物語から、さらなる物語やエピソードがもたらされるようになりました。きっと読者の心が揺り動かされるのでしょう。なぜなら、伝統や人の手から生み出される仕事は、人間には欠くことのできない、必要なものだからです。原画展が開かれるたび、そして絵本に関する新たな言及があるたびにうれしく思っています。
4. 日本の読者にひとこと
私にとって特別な関係にある日本の読者の皆さんにごあいさつ申し上げます。日本では手仕事がとても大切にされています。そして私がいつか訪れることを夢見ている国です。子どもたちが両親やおじいちゃん、おばあちゃんたちと絵本を読んだり、眺めたり楽しんでいる様子を思い浮かべています。アポレンカがみなさんによろこびと光をもたらしますように!
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